思い通りの夜明け

ずっと泣きそうな気持ちで街を見ていた。ふちまではりつめたコップの水みたいに、ちいさな震えが止まらなかった。同じ景色を見ていられるうれしさと、この景色がわたしだけのものではないさみしさが同じ速度で加速していった。

それでもあたらしい思い出やあたらしい気持ちに出会うたびに、あたらしい日々が生まれた。そしたらいつか見てみたいと思っていた景色を君と一緒に見ることができた。それは夢のようにきれいだった。自分が心底求めていたものが目の前にあることで、こんなにも新鮮で、こんなにも幸せな気持ちになれるだなんて、知らなかった。きっともうぜんぜん忘れていた。

好きなひとに蔑ろにされるのがこわかった。願いを口に出したりしなければそれは防げた。笑われることも、失望することもなかった。自分でひとつひとつていねいに気持ちを泥の底に沈めていく。そうやって相手の行動に合わせてさえいれば、なんとなく幸せに生きてゆくことができた。行きたいところも、やりたいことも、忘れてしまえばあとはもうただただ楽だった。手の届く場所に行けばいい。手の届く場所にいればいい。わたしの幸せは君の次でいいんだって、本気で思っていた。ばかだったのかな。

自分の願いを、幸せを、やりたいことを、行きたい場所を、食べたいものを、見たいものを、叶えていけるのはこんなにも幸せだったって、やっと思い出した。ぬるま湯の幸せなんてとっくに捨ててきたと思っていたのに、まだ続きがあった。あの場所に行ったから気づけたんだ。君が連れていってくれたって勝手に思ってる。じゃないとわたし、あそこに行きたかったことさえ忘れていた。君に言われて思い出した。忘れちゃダメだったことをぜーんぶ、全力で思い出させてくれた。

なんであの街に行くことになったのか、今となっては思い出せない。君に提案されたことと「それって夢だったの!」と思ったことだけ覚えてる。でも、なんかもう必然だったと思っちゃう。だからそれでいいよね。わたしが知らなかった街も、君と一緒に知ってる街になった。それでいい。あたらしい日々を生きるんだから。

と、ここまで書いたところで「パリピだよ〜フジロック〜♪♪♪」とか冗談言いながら彼氏とはしゃいでいる動画を見返してしまいいきなり完全にちからぬけた…。まあ幸せということで…。

こうやって簡単ではない人生をまたあたらしく手なづけて生きていこう。
思ったよりも簡単かもしれないから。

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